Vertex社は、米国腎臓学会(ASN)年次会議において、IgA腎症(IgAN)および原発性膜性腎症(pMN)に対する治療薬「Povetacicept」に関する新しい臨床データを発表しました。
この薬剤は、B細胞やT細胞の活性化に関与するBAFFとAPRILという2つのサイトカインを同時に阻害する効果を持ち、患者の腎機能を安定させながらたんぱく尿を大幅に改善することが確認されています。
IgA腎症(IgAN)におけるPovetaciceptの効果
Vertex社は、IgAN患者54人を対象にPovetaciceptの効果を検証しました。患者には80 mgまたは240 mgのPovetaciceptが皮下注射(4週間ごと)で投与され、特に80 mgの用量で以下のような改善が見られました。
- たんぱく尿の改善:治療開始から48週間で、尿蛋白クレアチニン比(UPCR)が平均66%低減し、たんぱく尿の顕著な減少が確認されました(n=8)。
- 臨床的寛解率:63%の患者が臨床的寛解(UPCR < 0.5 g/g、血尿陰性、腎機能の安定)を達成しました。腎機能は推定糸球体濾過量(eGFR)で評価され、48週間にわたり安定が維持されました。
- 副作用:軽度から中等度の副作用が報告され、重篤な副作用は確認されませんでした。
この結果を受け、Vertex社はIgAN患者を対象としたPovetaciceptの第3相臨床試験「RAINIER」を開始し、より大規模なデータ収集と評価を進めています。
原発性膜性腎症(pMN)におけるPovetaciceptの試験結果
さらに、Vertex社はpMNに対するPovetaciceptの初期データも発表しました。pMN患者は80 mgのPovetaciceptを皮下注射で24週間にわたり投与され、以下の効果が示されました。
- たんぱく尿の減少:治療開始から24週間でUPCRが平均62%低減し、たんぱく尿が顕著に減少しました。
- 部分的寛解率:67%の患者が部分的寛解を達成しました(UPCR < 3.5 g/gかつベースラインから50%以上のUPCR減少)。
- 抗PLA2R1抗体の減少:pMNの活動性の指標となる抗PLA2R1抗体が、治療20週で87%減少し、病態の改善が示されました。
- 副作用:IgAN同様、軽度から中等度の副作用が主で、重篤な副作用は報告されていません。
AMKDに対するInaxaplinの開発進展
Vertex社は、遺伝性腎疾患であるAPOL1変異に伴う腎疾患(AMKD)に対しても、新たな治療法の開発を進めています。同社の小分子阻害薬「Inaxaplin」は、APOL1による腎細胞への有害作用を直接抑制する初の治療薬候補であり、現在、2/3相試験「AMPLITUDE」の第3相部分における患者登録と投薬が進行中です。この試験では、腎機能をeGFRの変化で評価し、48週時点での中間解析により効果が確認されれば、米国での迅速承認を目指します。
今後の展望
今回のデータは、Povetaciceptが腎疾患の新たな治療選択肢として期待されることを示しており、Vertex社は今後もさらなる試験を通じてIgANやpMNの効果と安全性を検証する方針です。