MENU

2024年ノーベル生理学・医学賞、microRNA発見でAmbros氏とRuvkun氏が受賞

10月7日、カロリンスカ研究所のノーベル委員会は、2024年のノーベル生理学・医学賞をVictor Ambros氏(マサチューセッツ大学医学部)とGary Ruvkun氏(マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学医学部)に授与することを発表しました。

受賞理由は、「microRNA(マイクロRNA)」という小さなRNA分子の発見と、その遺伝子発現調節における役割を解明したことです。

目次

microRNAとは?

私たちの体は、数十兆個もの細胞からできており、それぞれの細胞には同じ遺伝子が含まれています。しかし、筋肉や神経、皮膚などの細胞は、異なる機能を持ち、異なる遺伝子が発現しています。この遺伝子発現を制御する仕組みは、生命の複雑さを支える重要なプロセスです。

microRNAは、遺伝子発現の「調節者」として機能する極めて小さなRNA分子です。これまで、遺伝子の調節は主にDNAに結合するタンパク質によって行われると考えられていました。しかし、Ambros氏とRuvkun氏は、microRNAがmRNA(メッセンジャーRNA)と結合し、特定の遺伝子の発現を抑える仕組みを発見しました。この発見は、RNAが単にタンパク質を作るための「設計図」ではなく、その過程を調節する役割も担っていることを示したのです。

発見のきっかけ

二人の研究は、線虫(Caenorhabditis elegans)という小さな線形動物を使って行われました。線虫は、発生の過程で細胞分裂や成長を観察しやすいことから、遺伝子研究において非常に重要なモデル生物とされています。

Ambros氏はlin-4という遺伝子を調べ、タンパク質をコードしない短いRNA分子を生成していることを発見しました。

一方、Ruvkun氏は、lin-4が生成するRNAがlin-14という別の遺伝子のmRNAと結合し、その発現を抑制していることを発見しました。

この新たな調節メカニズムは、RNAがmRNAの機能を抑え込むことで遺伝子発現を制御するという、これまでにない仕組みを明らかにしました。

普遍的な役割とさらなる発見

当初、この調節メカニズムは線虫に特有の現象と考えられていましたが、2000年にRuvkun氏のグループは、ヒトを含む多くの動物で見られる「let-7」という新しいmicroRNAを発見しました。これにより、microRNAが多細胞生物全般で遺伝子発現を調節する普遍的な機能を持つことが確認されました。

その後、世界中の研究者がさまざまな生物種でmicroRNAを探索し、現在ではヒトゲノム中に1000種類以上のmicroRNAが存在することが明らかになっています。microRNAは、発生の段階だけでなく、成体の組織や細胞の機能維持にも重要な役割を果たしており、生命の基本的なプロセスを支える要素として認識されています。

なぜ重要な発見なのか?

これまで、遺伝子調節は主にDNAからmRNAが作られる段階(転写)で行われると考えられていましたが、microRNAはその次の段階、つまりmRNAがタンパク質を作るプロセス(翻訳)を調整することがわかりました。

疾患とmicroRNAの関連

現在、microRNAの異常が癌や心血管疾患、神経変性疾患など多くの病気と関連していることが明らかにされています。

例えば、特定のmicroRNAの発現が過剰になると、がん細胞の増殖を促進する遺伝子の発現が増えたり、逆に抑制されたりすることで病気の進行に影響を与えることがあります。そのため、microRNAは新しい治療法の標的として注目されています

受賞者の経歴

Victor Ambros氏は1953年、米国ニューハンプシャー州生まれ。マサチューセッツ工科大学で博士号を取得後、ハーバード大学で独立研究室を開設。現在はマサチューセッツ大学医学部の教授を務めています。

Gary Ruvkun氏は1952年、米国カリフォルニア州生まれ。ハーバード大学で博士号を取得後、マサチューセッツ総合病院およびハーバード大学医学部で教授として研究を続けています。

参考情報

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次