コロナ禍が落ち着いてきたここ最近、製薬業界に起こっている変化として急激なWEB化があげられます。
規制産業であった影響からか、これまで必要性は謳いながらも実はWEB化に関しては長らく大きな変化がありませんでした。
しかし、感染制御目的の面会規制により直接面会を介さないWEB面談のニーズが主に企業側で急増しています。急激な変化により、顧客はもとより、MRたちにもフラストレーションが蓄積しています。
そこで今回、製薬会社のWEB面談が抱える問題点についてハード面(システム)とソフト面(人)の両面に分けて考察していきたいと思います。当記事ではハード面の考察を行います。明日からの活動の一助になれば幸いです。
製薬会社のWEB面談が抱えるハード面の問題
私が現在感じている問題点はハード面(システム)では3つです。
- WEB会議システムが複数存在し会社ごとに導入するものが異なる。
- 通信が不安定で複数のフォローオプションが必要で手間がかかる
- WEB面会は顧客の表情が分かりにくい
WEB会議システムが複数存在し会社ごとに導入するものが異なる。
WEB会議システムは空前の戦国時代に突入しておりまして、各種会社がしのぎを削っています。ここで十分なシェアを確保すれば莫大な利益を生みますからね。各社必死です。
当然製薬会社も営業を受け、どこかの会社と契約している訳ですが、各社バラバラの会社と契約するものですから、お互いの会社に別々のシステムが入っている状態になっています。
さらにセキュリティの都合で、会社ごとに使ってはいけないシステムも規定されているので、顧客側にシステムを変更していただいているケースもあります。顧客側にシステムを変えていただくのはツライものがあますし、ブラウザで動かせる会議システムはダウンが多くなるように感じます。
さらに操作方法も若干システムごとに異なるので、顧客がお願いしたシステムを使えるのか気を配る必要があります。
相手がどんなシステムを導入しているのか、使えるのかその都度考えながらWEB面談を提案している状態です。正直これは大きな負担ですし、顧客に要らない手間をかけている状態です。
これらの問題を解決する方法としては
- MRがすべてのシステムを使いこなす。(電話で説明できる程度には)
- 業界で統一したシステムをつくる。または既存の高シェアWEB医療サービスに会議システムをくみこんでもらうことで統一化を計る。
- 会議システム会社間の業務提携や会議システムの高品質化により機能や操作方法が収斂することを待つ。
2,3が早く行われれば問題は急速に解決しますが、なかなか時間がかかりそうです。2なんかは製薬協が主導でシステム検討してくれると非常に速く進みそうですが何とかならないものでしょうか。
短期的な対応としては1が現実的ですが6万人のMRが『使いこなす』レベルまで全て対応できるとは思えません。会社ごとに研修等実施してこういったモノへの親和性が弱いMRに寄り添うべきです。
顧客に迷惑かける可能性があるのですから自己責任なんて言ってはいけないでしょう。会社としてWEB面談を推奨するのならば、そこまで責任を持つべきでしょう。
通信が不安定で複数のフォローオプションが必要で手間がかかる
次は通信システムのダウンによるものです。会議システムごとに違いはありますが、現状のWEB面談は常にエラーやダウンによる面会途絶に気を使わなくてはなりません。
顧客にはアポイントで貴重な時間を頂いているので、無駄な時間は極力避けねばなりません。現状ダウンに備えて『電話』『メール』『サブPC』等を用意して面談しています。複数のフォローオプションが必要な状況がMRの精神面に影響し積極的活用に至っていない様に感じます。
通信環境が良くなって簡単にダウンすることが無くなれば、これらの準備は最低限で済みます。通信環境の整備に大いに課題があると感じています。環境整備への対応に関しては、会社側と顧客側それぞれあるかと思いますので、どんな対応が必要なのか考えてみます。
製薬会社の通信システムに問題がある場合
まず自身でやるべき対応としては可能な限り有線接続を行うべきです。無線と有線では回線の安定性が断然違います。と同時に周辺機器の確認も実施していただくのが良いでしょう。特に会社のルーターとケーブル、回線の契約内容を今一度確認することをおススメします。
- ルーターは1000BASE-T以上に対応したルーター
- CAT5e以上のLANケーブル(7とか8なら、なお良し)
- 1Gbps以上の速度が出せる光回線を契約
このくらいしていれば現状最良の通信環境になります。確実にWEB面会で困ることは少なくなるかと思います。どうしても無線の場合は11ac対応のルーターには絶対変えた方が良いです。
その他に、できるだけ早く検討してほしいことが、5G回線への早期切り替えです。恐らく5Gが浸透すればさらにWEB面談は使いやすくなるはずです。
顧客の通信システムに問題がある場合
続いて顧客側の通信速度に問題がある場合は、環境整備にお金をかけていただくわけにもいかないので、予め電波の良い場所を選ぶようにアナウンスしたり、医院内の電波が良い場所をチェックしたり、十分なエラー時のオプションを用意するといった対応が必要になるでしょう。
院内の電波が強い場所を探す方法は測定ツールを使う方法が最も良いです。
https://forest.watch.impress.co.jp/library/software/wifianalyzer/
こういったツールもあるので、顧客の許可を頂いた上であらかじめ測定するということも必要かもしれません。
WEB面会は顧客の表情が分かりにくい
顧客の表情がわかりにくくなる点もWEB面談のデメリットです。資料を映すとどうしても顧客の顔は小さくなりますし、そもそも画質、音質が悪く顧客の表情が使いみにくいという問題があります。
資料画面が大きくなり、顧客の顔が小さくなるという問題に関しては、配置変更ができる場合は配置変更で対応することが良いでしょう。
MR間であらかじめ配置を検討し可能ならば資料はできるだけ小さく表示し、確認のためには手元に紙媒体で持つといいです。医師の顔を少しでも大きく映し、小さな変化を見逃さない様に注意すれば直接面談により近い情報量を表情から得られるのではないでしょうか。
できない場合はカスタマーセンターに要望としてフィードバックを送りましょう。皆で送れば対応してくれるかもしれません。
音質に関しては、きちんとしたイヤホンマイクを導入した方が良いと感じています。ちゃんとしたイヤホンマイクがあれば、顧客が発した言葉を聞き逃さず、こちらから発する言葉を確実に伝えることが出来ます。コミュニケーションを円滑にするための投資と割り切るべきです。
画質に関しては外部カメラの導入や、PC更新で対応するべきですが、なかなか高い場合も多いので、まずは確実に音声を拾うために、イヤホンマイクがいいのではないかなと思っています。画質は前述の5G通信により高速化することでよくなる部分もあるかと考えています。
小活
実際にWEB面会をしてみて、私個人が考えるハード面の問題と対応策を紹介させていただきました。個人で現状できる対策をまとめると
- MRがすべてのシステムを使いこなせるように勉強する。
- 有線接続で面談する。機器は1000BASE-T以上に対応したルーター、CAT5e以上の高速通信に対応したLANケーブル、1Gbps以上の速度が出せる光回線を使用する。
- 顧客の顔が大きく映るように工夫する。
- イヤホンマイクを使い聞きやすい、聞こえやすい環境を作る。
といったところでしょうか。
続いてソフト面【人】について考察します。
製薬会社のWEB面談が抱えるソフト面の問題
続いてはソフト面、人について切り込んでいきます。
二つの側面から考察します。
製薬会社・MR側の問題
今、WEB面会が進んでいない会社・MR側の問題として感じている点は2点あります。
一つ目がMRのWEB面談の経験値不足、
そして二つ目が提供できる情報のクオリティが低くMR自身が諦めているケースです。
WEB面談の経験不足
まずは経験不足です。経験が浅く有効な活用方法や、どのような準備をするべきか分かっていない人が多いです。いきなり環境が変わりましたからね。適応できていない人々が多いです。
準備するにしてもWEB固有の問題難しさを十分に認識しておらず、何を準備するべきかわからない。そのため漠然とした不安にとらわれ身動きが取れなくなっています。これはMR個人の問題でもありますし、この状況への対応をMRに丸投げしている会社としての問題の両面の問題があります。
漠然とした不安って行動変化の時に常に伴う問題ですよね。変化に対応する必要は分かっていても全員ができる訳じゃないですからね。そもそも人間は変化に弱い生き物です。大きな変化にはフォローがあった方がいいです。
そろそろ各社ノウハウも集積してきているはずなので、会社として最低限のマニュアルを作るべき時期にきているのではないでしょうか。営業所レベルのノウハウ伝搬でも良いかもしれません。
顧客の不利益につながる可能性もありますので製薬協とかが動いてくれるとベストですがそれは望みすぎでしょう。
提供できる情報のクオリティが低くMR自身が諦めている
本当に提供できるデータがないのか、あっても使い古したデータしかなく医師の興味を引きづらいという2点が考えられます。多いのは使い古したデータしかなく顧客が完全に理解していると思っているケースではないでしょうか。
しかし人間は忘れる生き物です。記憶力に関する研究はエビングハウスの忘却曲線が有名ですが、この研究でも1週間たてば、記憶の節約率は約2割と1回目の記憶にかかった努力量の8割も必要とすることがわかっています。
毎週面会している先生でも1~2回紹介したデータは詳細までは、ほとんど覚えていないと言い切っても大丈夫です。さらに情報の提供角度を変えることで新鮮な気持ちで聞いてもらえる可能性も上がります。
工夫は必要ですが同じデータを使うことに億劫になるのは勿体ないです。まぁある程度長く働いているMRは皆知っている内容かもしれません。
顧客側はなぜWEB面談をしないのか
続いて顧客側の思考回路を考えていきます。都道府県によって感染状況や対策、意識も大きく異なる状況になってきましたので、会うことができる場合とできない場合に分けて考察を行っていきます。
現状、会うことができる場合
人口密集地以外では開業医の先生方にはかなり面会ができるようになってきていると聞きます。面会が可能な場合でも、これまで通り直接会って話すことを重要視している顧客と歓迎はしていないけど他の方法よりはいいと思って面会している顧客がいます。
直接あって話すことを重要視している
顧客の中に一定数いらっしゃいますが、MRと直接会って話すことを楽しんでいただいている顧客がいます。面会に情報のみを求めている訳ではなく個人間のつながり等を重要視している顧客なのでWEB面会はやめましょう。完全にニーズ外です。這ってでも情報提供に伺いましょう。
会うことはできるけれど、歓迎はしていない
意外とねらい目じゃないかなーと思うのがこの層の顧客です。訪問しすぎを歓迎しない顧客ですね。情報はほしいけどMRの邪魔な面もご理解いただいている顧客です。駐車場が埋まるのが嫌とかMRが沢山きすぎて大変とか、空気読まないMRが帰らなくて嫌とか、製薬会社のMRならばどこかで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
こういった不満がある顧客にとってはWEB面談は福音になる気がします。駐車場が埋まることもなければ、面会自体も医師の都合で制限しやすいですしね。なかなか帰らない奴には切断という最終手段もあります。
現状、感染対策で会うことができない場合
これも2ケース存在すると考えていまして、そもそも感染対策のド本流の病院に在籍していて、COVID-19で忙しくて会う状況ではないというケース。そして忙しくはないが会うことができないケースです。
COVID-19で会う状況でないほど忙しい医師
COVID-19で会う状況でない医師は本当にその通りですし、余計な負担をかけないためにも感染制御に役立つ情報を有する製薬会社以外はアプローチを控えるべきでしょう。
感染制御に役立つ情報であっても、手紙やメールで対応しできるだけ顧客に生まれた余剰時間で確認していただけるように、過剰に配慮するべきです。
COVID-19で異様に忙しくはないが、WEB面会もできない医師
製薬会社が一番苦慮しているのは、COVID-19で異様に忙しくはないが病院の訪問規制で会うことができない上にWEB面会ができない顧客でしょう。
この顧客の中にはWEB面会は使えるけれど、製薬会社とWEB面会するメリットを感じない、デメリットを感じているというケースとWEB面会の必要性は分かっているが、使い方がわからないというケースがあります。
WEB面会するメリットを感じない、デメリットを感じている
メリットやデメリットを感じている顧客がいる状況は完全に製薬会社の責任です。MRが持ってくる情報に魅力を感じず、Googleで十分だと思われていたり、そもそもMRが信用されておらず連絡先を教えるのが嫌だと思われている訳ですから。ひょっとするとWEB面会自体が嫌いというケースもあるかもしれませんが全体では少数派ではないでしょうか。
裏を返せば、有用な情報やGoogleに載っていない情報でしたら会っていただける訳です。なので会社ごとに差がありそうだなとは思っています。ラインナップの影響もありますが、現場と本部が連携してこの問題に取り組んでいるか否かという点も大きいでしょう。
必要は感じているけど使い方がわからない、漠然とした不安
恐らく医師側にも漠然とした不安を感じて使っていない人が一定数いるはず。特に高齢になればなるほど、この傾向は出てきます。WEB診療で業務拡大を狙わない場合、顧客の方が業務に及ぼす影響が少ない分、ひょっとすると多いかもしれません。
まとめとおまけ
基本的なWEB面会に対する対抗としては
- ノウハウの集積
- 紹介するデータを工夫して真新しさを出す。
こんなところでしょう。顧客ニーズにしたがって上記対応を
MRは行っていくことが基本スタイルとなるのではないでしょうか。
その中で
- 訪問しすぎを歓迎しない顧客
- WEB面会システムを使えるけどWEB面会するメリットを感じない、デメリットを感じている顧客
- WEBに対する漠然とした不安をもつ顧客
上記3つの背景を持つ顧客はアプローチ次第でWEB面会が有効な手段となるかもしれません。
データの見せ方の工夫やGoogleに載っていない情報を本部連携で発信しアポイントにつなげていくことが出来たり、WEBに対する漠然とした不安を解消していくことが出来れば、他社と差別化につながるのではないでしょうか。
的外れの可能性もあるんじゃない?
でも正直顧客側の意見はほしいかな?