はじめに
前回の記事T細胞の過酷な出生。恐怖のセレクション機関、胸腺学校とは?にてT細胞の出生と教育について紹介させていただきました。
今回は続いてその後の、進路と役割を紹介させていただきます。
前回も軽く触れましたが、胸腺学校を卒業したナイーブT細胞たちは現場に送られます。卒業時にマネージャーか兵隊かという点はある程度決まっていますが、特にマネージャーコースのCD4陽性細胞は現場の状況に合わせて配属先を調整されます。
それぞれのT細胞の進路は下記図の4つです。
ヘルパーT細胞
ヘルパーT細胞の仕事は免疫系の司令官です。がっつりマネージャー職の仕事をします。
この細胞と後述する制御性T細胞はCD4というバッチ(分子)をもつナイーブT細胞が状況を判断し分化します。
さらに司令官という重要な役割をになうヘルパーT細胞は配属先が3部隊あります。敵や環境によって配属先が異なり、微妙に違った細胞に分化します。
それぞれTh1、Th2、Th17といいます。わかりやすくT細胞+helper+数字です。CD4のバッチを持つ細胞はこの3部隊+制御性T細胞部隊の4つのどれかに配属されます。
Th1細胞
まずはTh1です。
彼女の行う仕事はウイルスや結核等に寄生され狂った細胞やガン細胞に対する免疫部隊を統括します。
彼女は貪食細胞のマクロファージや好中球を活性化する命令をだし、狂った細胞を貪食して破壊したり、細胞障害性T細胞に指令をだし、対象を破壊します。
つまり、おかしくなった細胞を細胞ごと破壊するという部隊を統括する細胞です。既に記載しましたが、後ほど紹介する細胞障害性T細胞はTh1の命令系統に配属されます。
Th2細胞
つづいてTh2細胞です。
こちらはおかしくなった細胞を攻撃するのではなく、
ウイルスよりはるかに大きい細菌などに対処する部隊を統括します。
細菌を攻撃する兵器は抗体、それを作る部隊をB細胞といいます。Th2細胞はB細胞に敵の情報を伝えることで、抗体を産生させ攻撃を行います。
抗体って何という方は過去記事:igG、igMって何?抗体の役割とはをご確認ください。
Th1とTh2は敵の種類によって、職業を選択するため、ウイルス性の感染ではTh1が多くなり、細菌の感染ではTh2が多くなります。わかりやすく言うとお互いを牽制しあう関係になっています。
『ウイルスなんだからお前でしゃばるなよ!!!』
『細菌は私の仕事だろ!!!』といった具合です。若干仲が悪いです。相手の足を引っ張って増えれなくなるような物質をお互いに出しあっちゃいます。
それでも、ウイルス感染でTh2細胞が全く働かないのかというとそんなことはなく、血中にあふれ出てきた寄生する前のウイルスを攻撃するために抗体を産生していますし。細菌感染でもTh1は細々と働いて貪食細胞を使ってサポートしています。
Th17細胞
Th1,Th2ときましたら次はTh3かと思ったら一気にTh17です。
なんでなん?という話なんですが、これはインターロイキン17を産生する細胞という意味でつけられています。
彼女は後方支援担当です。IL17を使うと最終的に好中球やマクロファージがやってきたり、活性化したりします。これが行われるとTh1,Th2が推し進めている免疫反応が加速します。どんどん炎症が加速します。
平たく言うと免疫反応のアクセルを司るのがTh17 細胞です。
免疫反応のアクセルを司るのでリウマチ等の免疫の暴走が原因になる膠原病の原因と考えられています。
制御性T細胞
つづいて制御性T細胞(T-reg)です。
Th17細胞は免疫のアクセルを担当していましたが、T-regはブレーキを担当します。
延々と加速した免疫を終了させる停戦担当です。ヘルパーT細胞と同様にCD4陽性のナイーブT細胞から分化します。
この細胞はTh17細胞とお互いを抑制しあいます。まるでTh1とTh2の関係と同じようにT-regが増えればTh17がへり、Th17が増えればT-regが増えるという関係になっています。
細胞障害性T細胞
次に細胞障害性T細胞(Tc)です。cはcytotoxic(細胞毒性)の略です。
TcはCD4ではなく、CD8というバッチ(分子)をもつナイーブT細胞から分化します。
Tcの仕事はおかしくなった細胞を破壊することです。
Tcは直接おかしくなった細胞に穴をあけて破壊したり、自死命令をだしてアポトーシス(プログラム細胞死)に導きます。ヘルパーT細胞とことなり直接働く兵隊です。ちなみに前述のとおりTh1の部隊に属し、Th1の命令で活性化したり増殖したりします。
命令待ちで活動するため、少々反応が遅いのが玉に傷ですが、いったん命令が下ると組織的に働き獅子奮迅の働きをします。
ナチュラルキラーT細胞
最後にナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)です。
かれの仕事もTcと同じくおかしくなった細胞を破壊することです。
大きく異なるのはTh1の指示の必要がありません。独断でおかしくなった細胞やがん細胞を見つけ破壊します。
指示なく生まれながらに殺傷能力を持つことからナチュラルにキラーな細胞なのです。しかしながらT細胞中の1%程度しかおらず、また分化経路も複雑で簡単になれるものではありません。
卒業率1%の胸腺学校を卒業したT細胞のさらに1%の少数がなれるスーパーヒーローです。ちなみに近縁にTCRをもたないナチュラルキラー細胞という細胞もいます。
まとめ
T細胞の仕事について簡単に紹介させていただきました。もともとは同じ細胞でもCDの違いや環境によってさまざまな細胞に分化して複雑な免疫システムを担当します。
ほんとうにザックリですので、不足部分も大きいですが、ニュースや簡単な理系記事を読むための一助になれれば幸いです。
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