魚の命で出来ている薬
実は私、非常に魚が好きです。
見るのも食べるのも釣るのも好きなんですが、
本業の薬にも魚は関わっています。
それがエパデールとロトリガです。
薬ってカッコよく作られていそうなイメージ…
ありますよね?
ですが、魚から作られる薬もあるんです。
動物実験で多くの命を使う薬ですが、
ダイレクトに原料になっていると
実感を伴いやすいですよね。
薬って命で出来ているんです。
この記事では
エパデールとロドリガの作られ方、
主要エビデンス
そして薬は命で出来ています。
大切に飲みましょう
ということをお伝えできればと思います。
エパデール
まずはエパデールです。
持田薬品から発売されています。
薬価収載は1998年
既に20年以上経過している薬剤です。
どんな薬
EPA製剤の
イコサペント酸エチルカプセルという薬です。
効能効果は
閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、
疼痛及び冷感の改善と高脂血症です。
用法容量はそれぞれ違います。
- 閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善の用法容量はイコサペント酸エチルとして、通常、成人1回600mgを1日3回、毎食直後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減。
- 高脂血症の場合はイコサペント酸エチルとして、通常、成人1回900mgを1日2回又は1回600mgを1日3回、食直後に経口投与する。ただし、トリグリセリドの異常を呈する場合には、その程度により、1回900mg、1日3回まで増量できる。
高脂血症の場合は2700mg/日まで使えます。
もともとの発見は1960年代。
デンマークでイヌイットを対象とした
疫学研究を実施したところ
野菜をほとんど取らないにもかかわらず、
心筋梗塞が少ないことがわかりました。
彼らの血液を調べたところ
圧倒的に高いEPA濃度を示したことから
研究が始まっています。
エビデンス
エパデールで最も有名な試験は間違いなく
JELIS試験でしょう。
市販後調査:JELIS
既に食事指導を行い、血清総コレステロール値が250mg/dL以上で、HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が必要とされる高脂血症患者(安定している虚血性心疾患合併患者を含む)を、HMG-CoA還元酵素阻害剤(プラバスタチン10mg/日又はシンバスタチン5mg/日)とエパデール1,800mg/日の併用による治療(エパデール群)又はHMG-CoA還元酵素阻害剤のみによる治療(対照群)に無作ために割り付けた。非盲検下で平均4.6年追跡した有効性評価対象18,645例(エパデール群:9,326例、対照群:9,319例)において、心血管イベント(突然心臓死、致死性及び非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、心血管再建術)は、エパデール群で262例(2.8%)、対照群で324例(3.5%)に認められ、ハザード比は0.81(95%信頼区間:0.69-0.95、以下同様)であり、エパデール群で有意に減少した。
心血管死(突然心臓死又は致死性心筋梗塞)は、エパデール群で29例(0.3%)、対照群で31例(0.3%)、ハザード比は0.94(0.57-1.56)
総死亡は、エパデール群で286例(3.1%)、対照群で265例(2.8%)、
エパデール添付文書より引用
ハザード比は1.09(0.92-1.28)であり、いずれも有意差は認
められなかった。
結果は一次エンドポイントは
EPA群262例(2.8%),対照群324例(3.5%)(HR0.81;95%信頼区間0.69~0.95,p=0.011)
とEPAを使用することで
有意な低下を認めました。
文献を細かく見ますと
一次予防では有意差がつかず、
二次予防で19%有意に低下しています
(p=0.048)。
JELISはEPAに
確実な心血管イベントの抑制効果があることを
証明した最初の大規模試験です。
EPA製剤の指針となった
エビデンスと言えます。
製造方法
エパデールは
イワシの脂を精製して作られています。
日本の大手水産食品会社のニッスイが
チリで現地法人を作って
魚脂を備蓄、日本に輸送し
持田製薬が精製しています。
チリのイワシということで
恐らくチリマイワシが原料だと思われます。
余談ですがマイワシの仲間は
- マイワシ
- カリフォルニアマイワシ
- オーストラリアマイワシ
- ミナミアフリカマイワシ
- チリマイワシ
がいます。
詳しい製造方法は
持田製薬さんのWEBサイトに
動画が載っています。
8分程度の長編動画ですが
一度ご確認する価値はあります。
イワシの脂が
世界&日本全国を巡って
精製される様が紹介されています。
ロトリガ
続いてロトリガです。
武田薬品が2013年より発売しています。
エパデールと比べて
かなり遅くなって発売されました。
どんな薬
ロトリガは武田薬品工業が販売する
EPA・DHA製剤の
オメガ-3 脂肪酸エチル粒状カプセル
という薬です。
エパデールとは異なりDHAも含有されています。
- 効能・効果はエパデールと同じ、高脂血症
- 用法・用量は通常、成人にはオメガ-3 脂肪酸エチルとして 1 回 2 gを 1 日。1 回、食直後に経口投与する。ただし、トリグリセライド高値の程度により 1 回 2 g、1 日 2 回まで増量できる。
エパデールはEPA単独でMAX2700mg。
ロトリガはEPA+DHAでMAX4000mgですね。
追加で入っているDHAは1980年代に
神経系に豊富に含まれていることから
頭が良くなると話題になった成分です。
研究自体はEPAよりも進んでいません。
そのためDHA自体の研究は未熟で
神経系に多いことと母乳に含有されることしか、
はっきりとわかっていることはありません。
エビデンス
エビデンスには
P3試験の二重盲検試験があります。
エパデール常用量と
2000mg、4000mgの直接対決です。
血清中トリグリセライドが高値の患者を対象に、オメガ-3脂肪酸エチルとして 2 g/日( 1 回 2 g、朝食直後)、4 g/日( 1回 2 g、朝食及び夕食直後)又はイコサペント酸エチルとして1.8g/日( 1 回0.6g、毎食直後)を12週間経口投与した実薬対照二重盲検比較試験を実施した。
各群の空腹時トリグリセライドの投与前値(-4週、-2週及び 0 週の平均値±標準偏差)はオメガ-3 脂肪酸エチル 2 g/日投与群で269.0±77.5㎎/dL、
4 g/日投与群で277.5±97.3㎎/dL、イコサペント酸エチル1.8g/日投与群で271.8±91.5㎎/dLであった。オメガ-3 脂肪酸エチル 4 g/日投与群とイコサペント酸エチル1.8g/日投与群の空腹時トリグリセライド変化率の差は-11.35%(-15.94--6.76)〔点推定値(95%信頼区間)〕であり、有意なトリグリセライド低下作用が認められた(主解析)。
また、オメガ3 脂肪酸エチル 2 g/日投与群とイコサペント酸エチル1.8g/日投与群の空腹時トリグリセライド変化率の差は0.37%(-4.25-4.98)〔点推定値(95%信頼区間)〕であり、非劣性(許容限界:7 %)がみられた(副解析)。
ロトリガ添付文書より
結果は2000mgだと非劣性で4000mgだと勝利!!という内容なのですが、
エパデールは2700が最高用量なので
4000の勝利は当然では…とおもいます。
常用量だと非劣性なので、
まぁ同等に効いているという解釈でいいか
とおもいます。
製造方法
実はこの薬、
武田薬品創薬ではなくて導入品です。
ノルウェーのBASF社
(元Pronova BioPharma ASA)
が創薬しています。
ロトリガの発売は前述の通り2013年ですが、
海外では既に20年以上前から
発売されておりまして、
歴史自体はエパデールと同じくらいです。
ヨーロッパではOmacor®
アメリカ、アジアではLovaza®
という名前で発売されています。
BASFのHPを確認すると
俺たちパイオニアだぜ!!
20年以上売ってまっせ!!
とデカデカと書かれていました笑。
海外らしいHPなので確認すると面白いです。
We created the omega-3 pharma market
Over 20 years ago with our drugs Omacor® and Lovaza® – the world’s first omega-3 fatty-acid-based drug for cardiovascular disease – we created the omega-3 pharma market. We pioneered the use of omega-3s as pharmaceuticals and successfully proved the potency of omega-3s in patients suffering from cardiovascular disease and developed the reference standard for prescription omega-3 ethyl ester 90 .
BASFのサイトから引用
製造自体は
サンデフィヨルドにある工場で製造されてます。
もともとはデンマークのカロンボーにも
工場を作ったという記述も
Pronova BioPharma時代のHPにはありましたが、
BASFに近隣バレルプの工場があったため
統合されたのかもしれません。
BASFのサイトでは
カロンボー工場は見つけられませんでした。
サンデフィヨルドの工場は
巨富大工場なのでぜひHPをご覧ください。
魚種は海洋魚としか記載がなく
種類特定はできませんでした。
余談ですが、
なんでそんな20年以上古い薬を
今更日本に導入した?
と疑問に思われるかとおもいます。
理由は単純でドル箱だからです。
オメガ3脂肪酸市場は
GRAND VIEWRESEACHの調査によると、
2016年に世界で20.4億ドルまで拡大、
今後も年平均6.6%で
成長すると予想されています。
そんなオメガ3の医薬品領域が
日本ではエパデールの独壇場だったわけで、
そんな美味しい話は許さない!!
と武田薬品が導入した形です。
一応武田薬品の正式な言い分としては
既存のEPA-E製剤の通常用量のTG低下作用はフィブラートやニコチン誘導体に比した弱く高TG血症に対する治療薬としての臨床的ニーズを完全は満たせていない。
ロトリガ申請資料概要より
というものがあります。
ロトリガならこのニーズをより満たせますよ。
選択肢にあるのは悪くないですよ!!
というものですね。
患者のためにも選択肢が増えることは
確かにいいことです。
真意は不明だけどね!
薬は大切に飲もう!1包1つの命
最後に1点、
これが最もお伝えしたかったことです。
エパデール1包作るのに
何匹のマイワシが使われているか
考えたことはありますか?
マイワシの可食部100gあたりには
約1000mgのEPAが含まれています。
通常マイワシの重さは100−200g程度です。
可食部は50%程度なので
マイワシ1匹から50ー100gの可食部が取れます。
つまり500mg−1000mgのEPAを
可食部から取ことができます。
頭部にも沢山EPAが入っていることを考えると
おおよそ1匹から
700mg−1200mg位のEPAが取れる
と考えられます。
精製の家庭で何割かはロストすることを
考慮すると実際に使える量は
可食部分くらいでしょうか。
魚のサイズはまちまちなので
正確な値は分かりませんが、
大体エパデールS600mg1包や900mg包あたり
マイワシ1匹が犠牲になっている
と考えていいでしょう。
エパデールは一日あたり1800mg消費するので
2−3匹の命を消費しています。
1包に1つの命がのっかっていると思うと
もう少し大切に薬を飲めるのでは
ないでしょうか。
もちろん他の薬だって
動物実験で数多の命が犠牲になっています。
マウス、ラット、ウサギ、犬、カニクイザル等々の
献身の上に薬は発売されています。
全ての薬は命で出来ています。
現在日本の飲み忘れ残薬は
毎年500億円にのぼると言われています。
500億円分の薬が無駄に捨てられています。
この問題は医療費削減のためには
よく議論されていますが、
その背景にある
命を無駄に消費していることに対して
焦点が当てらていないです。
エパデールやロドリガは
非常に有名な薬ですし、
マイワシ1匹1包という
分かりやすい関係が
薬=命の結晶である
ということを
認識していただく
一助となれば幸いです。
薬は命!!
無駄にしない様にしよう!!