はじめに
本日アビガンの5月中の承認断念というニュースが流れてきました。
どうやら、第Ⅲ層試験(PⅢ)後に承認されるという医薬品承認の大原則は守られそうです。
政府よりも富士フイルム富山化学が冷静でしたね。
アビガン 5月中の承認を断念#Yahooニュースhttps://t.co/Swv6eiRh83
— シャ・チクチク (@mrnetinfo) 2020年5月25日
これを受けて、アビガンの承認問題はひと段落かなと思ってます。
そこで今回は、当ブログの
・アビガン関係記事の振り返りと、
かねてよりアビガン承認に関して訴えてきた
・ランダム化比較試験の重要性について
ポイントをまとめて紹介します。
関連記事振り返り
私は4月の頭からTwitterやブログで
『未承認の薬を観察研究だけで承認したり、積極的に使用するべきではない』
と怒り倒してきた訳ですが、冒頭でも述べた通り本日でひと段落ついたなと安心しております。
これで大々的な薬害に発展し、さらに有効性も証明できず、患者や製薬会社がメディアの食い物にされる最悪の展開は回避できました。
承認と早期使用をめぐっては
都度都度、怒り倒してきましたので、ブログも関連記事だけで3記事になりました。
- 薬害歴史から非専門家のアビガン積極推奨に警鐘を鳴らす。
- 医薬品の特例承認(薬機法14条の3をザクッと解説)なぜアビガンは特例承認されないのか。
- 医薬品のRMPってご存知ですか?アビガンのRMPでリスクを確認しよう。
それぞれ簡単に振り返ると
薬害歴史の記事では長く使われていて安全だという理由や、一部の権威の言葉によってデータ不足の状態で承認した結果、薬害に発展した歴史を紹介。医薬品の特例承認ではべクルリー(レムデシビル)承認の際に存在した(今もありますが)アビガン未承認は陰謀であるという意見に対して特例承認の条件とランダム化比較試験の重要性を紹介し応酬。
医薬品のRMPってご存知ですか?ではRMPの紹介と重大な潜在的リスクの紹介。
…と怒りのままに記事を作成しています。
首相が5月承認を目指す、といったり、厚労省(PMDA)が観察研究だけで承認できるとコメントした際には、
『世論に押されて越えてはいけない一線を越えたか!!』
と怒り心頭で眩暈がしたほどです。怒りのあまりtweetがおかしくなりました(笑)
厚労省の玄関のコレに胸張って報告できるなら承認すればいい。
ただそれは間違いなく異常承認だ。
特例ですらない。 pic.twitter.com/bLzP9OEVBD
— シャ・チクチク (@mrnetinfo) 2020年5月13日
その後、日本医師会から下記提言が出てきて、我が意を得たりと感動もしました。
新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言 | 日本医師会 COVID-19有識者会議
もうね。テレビのコメンテーターやら、某大学の教授やら、わけわからんYouTuberやらインフルエンサーやらが好き勝手言うの、ホントにやめて欲しい!!
無茶苦茶言うので弱小ながら戦わなくてはと少し力が入り過ぎたかもしれません。自分でも少々反省しております。
まぁ一貫して、PⅢ&ランダム化比較試験の必要性を弱小ブログで訴えてきた訳です。
では、なぜランダム化比較試験が必要なのかをご紹介します。
ランダム化比較試験の必要性
まずランダム化比較試験って何?
と軽く紹介します。Wikipediaから引用です。
評価のバイアスを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である。従って根拠に基づく医療において、このランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である。
引用:Wikipedia
患者をランダムに選んで、バイアスを避けたすっごいエビデンスレベルが高い試験ってことです。一つの試験としては最も高いエビデンスレベルの試験です。
文字だけだとわかりにくいので例を上げながら非ランダム化&非比較の問題点を解説し、ランダム化比較試験が必要な理由を紹介します。
非ランダム化の問題点
まずランダム化とは何かという点です。
ランダム化とは治験に登録する際に、実薬を飲ませるのか、偽薬または、標準治療を行うのか、という決定をランダムに行うということを表しています。
コインを投げて表なら、実薬、裏なら偽薬といった具合です。
実際はコインなんか使いませんが、何らかの形でランダム化処理をします。
余談ですが、ランダム化の結果、どっちに振り分けられたか医師も患者も知らない試験を二重盲検、片方が知っている試験(多くの場合医師)を単盲検試験といいます。よりバイアスを消せる二重盲検比較試験がエビデンス的には最高です。
このランダム化処理を行わないのが非ランダム化試験です。当たり前ですね。
非ランダム化試験では、実薬を飲むのか否かという決定を医師が行います。
この時に、
作為性の有無に関わらず意思が介入してしまう点が問題
なのです。
『この患者は助からなさそうだな…プラセボを飲ませよう』
『この患者は元気がいい様に感じる。実薬を使おう』
という決定が出来てしまいます。これによって生じる偏りをバイアスを呼びます。
そうして作られたデータは当然非常に良いデータです。厳しい厚労省の承認申請も余裕でクリアできてしまいます。改竄ではありませんが、本質的には同レベルです。
医者はそんなひどい事しないと思われるかもしれません。ほとんどの医師はそうです。しかしながら今回のコロナ騒動において治療薬開発は国家レベルの利権が関わります。
国、世論のプレッシャーや金銭的欲求、名声欲といったノイズにより、上記の様な選択(バイアス)を行わないとは言えません。
またそういった欲がなくても、治療のスペシャリストである医師が総合的に情報を判断し無意識に薬が効きやすい患者を選んでしまうこと(これも同様にバイアス)も完全になくすことができません。
上記の様な理由により、非ランダム化試験は客観的に薬の性能を評価できないのです。
作為性の有無にかかわらず薬の性能にバイアスが上乗せされたデータが出てきてしまします。
(逆にマイナスのバイアスもありえます)
仮にランダム化した場合と同じレベルで患者を選べる医師がいたとしても
『有利になるために作為性をもって患者を選んだ』という疑いを消すことは困難です。
大金がかかった薬の開発を
中国が作為的介入が可能な方法で試験を行う…
ヤバくないですか?
非比較試験の問題点
こちらはわかりやすいです。
比較試験を行わない問題点は
『なにもしなくても同じだったんじゃない?もしかすると悪さしているかもよ?』という可能性が否定できない
ためです。
仮にA病という病気があったとして、
薬を使って80%の患者が回復したとしましょう。
非常に効果がありそうに感じますよね。
そこで国は10万人の病人に薬を使い、80000人の患者を救命することに成功したとします。死者は20000人に抑えられました。ここまでは大成功でしょう。万々歳です。
しかしながら、その後の研究で、そのA病は何もしなくても85%の患者が回復する病だとわかったらどうでしょう?何もしなければ85000人が助かりました。
5000人は薬の副作用で無駄に命を落としたことになるのです。
広く使用する前に、対象群を設定するランダム化比較試験を200人(実薬100人、偽薬100人)で実施していれば
実薬群:死者20
対象群:死者15人
となり、薬が毒であることがわかり、広く使われることが防げるため5000人の無駄な死を防ぐことが出来たわけです。
この様に比較試験をのデータを使わず薬効を評価すると、無効薬を世に出すどころか、実は毒でしかなかったという薬を世に出してしまう危険性があります。
無効だった場合でも薬の副作用は上乗せされるので、多くの場合は毒になってしまいます。
間違った承認をしないためにも比較試験は必須なのです。
トランプ大統領は未承認のヒドロキシクロロキンを予防服用していると公言していましたが、その後、比較試験により、ヒドロキシクロロキン服用患者では死亡率が上がっていることがわかりました。全く同じことが起こってますよね。
彼は比較研究の重要性を軽視したために、この様な愚かな行動をとってしまったのでしょう。可能ならば世界の米国の大統領にふさわしい振る舞いのために、FDAにきつく薬害教育を施してもらいたいです。
まとめ
アビガンの積極的使用を訴える人々の根拠となるデータは、中国の非ランダム化比較試験、または比較していない観察研究、そして外国での使用経験がほとんどです。
前者は捏造の疑いの多い中国の非ランダム化試験ですので、信じろという方が無理があります。さらに中国はアビガンビジネスを間違いなく狙っているでしょうから少しでもいいデータがほしいはずですよね。そんな中、バイアスをかけられる非ランダム化試験を信じられるのでしょうか。私にはできません。
後者では比較対象を置かない試験や海外の使用経験で9割効果があったと訴える方がいらっしゃいますが、COVID-19は8~9割の方が無治療で治る病気です。99%とかなら『お!!』とは考えますが、9割程度では何もしなくても対して変わらなくない?という疑念を晴らすことが出来ません。それどころか、何もしていないより、少しだけ悪くなっている可能性すら捨てきれません。
悪化等のさまざまな危険性を回避し、バイアスの排除された確かな有効性データを作るためにはランダム化比較試験が必須なのです。
これまでぷりぷりぷりぷり怒ってきたアビガン記事がこれで最後になればいいなと切に願います。