メトホルミンの回収について
大日本住友製薬から2020/4/27にプレスリリースの発表がありました。
https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/pdf/ne20200427.pdf大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:野村 博)は、当社が製造販売するビグアナイド系経口血糖降下剤「メトグルコⓇ錠250mg」「メトグルコⓇ錠500mg」(一般名:メトホルミン塩酸塩、以下「本剤」)について、本日(4 月27 日)から、自主回収(クラスⅠ)を開始しましたので、お知らせします。
厚生労働省の2019 年12 月9 日付け事務連絡「メトホルミン塩酸塩における発がん性物質に関する分析について(依頼)」において、メトホルミン塩酸塩を含有する有効期限内の製剤および当該製剤に使用されている原薬について発がん性物質N-ニトロソジメチルアミン(以下「NDMA」)の分析が指示されました。
これを受けて、当社は、本剤の製剤および原薬を分析した結果、PTP 包装品の複数のロットから管理指標を超えるNDMA が検出されたため、管理指標を超えたロットおよび超えている可能性のあるロットのPTP 包装品について、医療機関および特約店から自主回収をすることとしました。
原因は明確ではありませんが、本剤のPTP アルミ箔の錠剤接触面の印刷インクに含まれるニトロセルロース系樹脂由来の物質が、錠剤中の原薬に僅かに残留していた原料であるジメチルアミンと反応してNDMA が生成された可能性があると考えています。
内容を箇条書きにすると
- メトグルコ(メトホルミン)回収します。
- 12月に厚労省に指示されたNDMAの分析を行いました。
- 複数ロットから管理指標を超えるNDMAを検出しました。
- 原因は不明です。
- 考えられる理由はPTPアルミ箔の印刷インクと原料が反応した可能性があります。
関連記事:日医工の15品目自主回収について:理由を表にしました。
NDMAとは
さて問題のNDMAですが、
Nーニトロソジメチルアミンという有機化合物です。
腎・肝毒性と発がん性があるとされています。
まぁ平たく毒&発がん性物質だと思っておけば大丈夫です。
ちなみに構造式は以下の通りで非常に単純な構造をしています。
これが、どんな場所で生まれるかというと
農薬、ゴムタイヤ、染料などの化学製品の製造工程で放出されています。
また大気・水・土壌中などのいろいろな場所で反応して生まれている物質です。
生成自体は珍しいものではありません。
生物によって分解されるため、環境中には残らないとされています。
過去バルサルタン等でも回収
メトホルミン以外の医薬品でもNDMA関連の回収は過去、既に起きております。
特に2018年のあすか製薬バルサルタンAAの回収が有名です。
この時は1255万錠の自主回収が発生しました。
ちなみにこの後一部のH2ブロッカーでも同様の事案が発生し
現在では以下表に表す様に原薬の管理基準が定められています。
食品にもNDMAは入る
NDMA の前駆物質は、植物、魚類、藻類、糞尿中等さまざまな場所に確認されています。
それらが、環境から受ける化学的エネルギーや熱エネルギーで反応しNDMAに生成されます。
生成ルートとしては
窒素肥料を使い窒素化合物を蓄えた野菜と魚類を食べると胃の中で反応し、少量生成されるルートと
化学物質を使う食品や熱や煙を使う食品で生成されるとされています。
特に多いものは下記引用の通りです。
♯ 加工肉製品(とくにベーコン)やチーズ(保存法によって食品中にニトロソ化物質が生成される)など、硝酸塩や亜硝酸塩を添加する保存食品
♯ 魚・肉製品など、燻製による保存食品(煙に含まれる窒素酸化物がニトロソ化物質として働く)
♯ 麦芽、低脂肪粉乳製品、香辛料など、燃焼ガスによる乾燥食品(燃焼ガスに窒素酸化物が含まれる)
♯ 特に野菜のピクルスなど、酢漬けや塩漬け食品(硝酸塩から亜硝酸塩への微生物還元が起きる)
♯ 細菌の混入によってニトロソアミンが生成されやすい高湿度条件下で、栽培または保存される食品NDMA保存剤を添加する加工肉・燻製品
引用:http://www.nihs.go.jp/hse/cicad/full/no38/full38.pdf
ベーコン・チーズ・燻製・麦芽、低脂肪粉乳製品、香辛料、塩漬け、酢漬けおいしそうなものばかりですね。
加工肉はがんになりやすくなるという話を聞いたことのある方も多いですよね?
毎日ベーコンを朝食で食べる食生活の国もあります。もし毎日ベーコンを食べる習慣があるのでしたら、改めた方が良いでしょう。
NDMAの安全性
研究によってばらつきはありますが、基本的には食事からの摂取量が増えれば増えるほど発がんリスクが上がるとしている研究が多いです。(関係ないとする研究もあります)
ベーコン等、加工肉を減らした方がいい理由です。
1つ研究を紹介すると
フィンランドで 9,985 人を 24 年間追跡した調査があります。
24年間の追跡の結果9,985人中189 人が消化器がんを発症しました。(頭頸部がん48人、胃がん 68 人、結腸直腸がん 73 人)
この時、結腸直腸がんの相対リスクは2.12(95%CI: 1.04~4.33)と有意に高く
頭頸部がんや胃がんに有意な関連ありませんでした。
ちなみに今回のメトホルミンの安全性については、
いっせい検査の切っ掛けとなった厚労省の通知資料に以下記載がありました。
HSA*1は、検出されたNDMAの量は一日許容摂取量(0.0959µg/日)を上回るものの極微量であり、回収対象となっている製剤を短期間服用したことによるリスクは極めて低いとしています。
また、FDA*2は、一日許容摂取量のNDMAを 70 年間毎日摂取した場合であっても、発がんリスクの上昇は懸念されないこと等をアナウンスしています。
許容量を70年毎日接種しても、発がんリスクの上昇を認めないという非常に厳しい管理基準が伺えます。
また糖尿病学会のHPでも
これまでに本製品によるNDMAに関連した重篤な健康被害等の報告はありません。メトグルコなどメトホルミン製剤を服用中の患者の皆様は、本件について心配な点があれば独断で服用を中止せず、主治医に相談してください。
と記載されています。健康被害よりも勝手に薬を中止するデメリットが多いという判断を下しています。
現状の確認状況
最後に今回調査対象になっている会社は15社です。状況を記載いたします。(随時更新)/9/17追記
★検出⇒回収
大日本住友製薬、日本ジェネリック
9月追加:日医工、東和薬品
★発表なし
第一三共エスファ、トーアエイヨー、ニプロ、辰巳化学、三和化学研究所、ファイザー、日本新薬、シオノケミカル、ノバルティスファーマ、武田薬品、武田テバ薬品