最近、検査や薬関連のニュースでigGとかigMという単語を目にする機会増えました。
高校生物が得意だった人にとっては、なんてことない話ですが、
『あれ?なんだっけ?』という方や
『実は生物嫌いだった』という方も多いのではないでしょうか。
今回そういった方向けに抗体の概略をまとめました。
明日からのニュースを理解しやすくなります。
免疫グロブリンとは
抗体はよくigと略されます。
igはImmuno globulinの略で
和訳すると免疫グロブリンです。
グロブリンは血漿中に存在するタンパク質のことですので、
免疫として働くタンパク質という認識で大丈夫です。
一般には抗体と呼ばれます。後述しますが、
igはA,D,E,G,Mの5クラス存在し、
AとGはそれぞれA1,A2,G1,G2,G3,G4のサブクラスに分かれます。
5種類あるくらいで十分です
なお抗体を発見したベーリング博士は
第1回ノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
共同研究者の北里柴三郎博士も候補者でしたが
黄色人種という理由で受賞できなかった
という話もあります。
抗体の構造
抗体の構造はY字型をしています。
これはどこかで見たこともある人が多いのではないでしょうか。
下の画像の
赤い部分をH鎖(Heavy chain)
紫の部分をL鎖(Light chain)
Y字の
上半分をFab領域
下半分をFc領域
といいます。
Fab領域はウイルスや細菌といった抗原に結合する部分です。
この部分を組み替えることで数々の抗原に結合できる様に変化します。
Fc領域は他の細胞が持つFc受容体(鍵穴みたいなもん)
に結合することでさまざまな作用を示します。
余談ですが
FcはFragment crystalizable:結晶化する断片(本当に結晶化できます。)
それぞれの頭文字を取っています。
どっちがFabが忘れなくなるね
抗体の持つ特異性
抗体の特徴は何といっても
特異性です。
特異性というと難しく感じますが、
特定の限られた相手にのみ結合するということです。
Aのために作られたA抗体はAにしか結合しませんし、
Bのために作られたB抗体はBにしか結合しないということです。
多くの抗体は複数の相手には結合しません。
オーダーメイドの特注品なのです。
抗体の役割
抗体のメインとなる働きを
いくつか簡単に紹介します。
中和作用
まずは、中和作用です。
病原体の感染や毒性を発揮する部分に対して作られた抗体は
病原体のターゲットへの結合を阻害し、人体を守ります。
こういった抗体は中和抗体と呼ばれます。
オプソニン作用
つぎにオプソニン作用です。
貪食細胞と呼ばれる好中球やマクロファージは
単体でもウイルスや細菌を捕食します。
そしてコイツらはめちゃめちゃ強いです。
免疫界の殺し屋です。
しかしながら、そんな殺し屋でも元気な病原体を捕食するには
捕食のとっかかりとなる部分がすくない為、時間がかかります。
こんな時に抗体が結合していると、
抗体のFc領域と貪食細胞のFcレセプターが結合し足がかりになります。
さらに細胞自体も活性化されスムーズに捕食します。
捕食しやすくします。
補体の活性化
3つ目は補体の活性化です。
補体…いきなり出てきましたね。
補体は抗体の菌を溶かす作用を助けるものという意味で
補体(complement)と名づけられました。
これも抗体と同じタンパク質群です。
そしてその多くはタンパク質分解酵素です。
細菌の細胞膜を壊す力を持っています。
抗体にはこの補体を活性化する力があります!
菌と結合した抗体によって活性化された補体は
連鎖反応を起こし補体第9成分という状態まで変化します。
第9成分は一部が環状構造をしているため、
分解の際に、細菌の細胞膜に大きな穴をあけることができます。
大穴が開いた菌は中身があふれ出し死ぬことになります。
ちなみにウイルスに関しては働かないのかというと、
決してそんなことはなく
活性化の途中に生じる補体の中には
ウイルスをオプソニン化して貪食細胞が捕食しやすくしたり、
好中球を呼び寄せる働きをするものがありますので、
ウイルスに対してもしっかり働きます。
この他にも抗体には脂肪細胞の活性化や凝集反応、沈降反応、
そして標識として使うことで検査に使われる標識抗体等がありますが、
抗体のメインの役割は異物にくっ付いて排除することですので
今回は控えます。
生物が作り出した戦略兵器なんです。
免疫グロブリンのクラス
最後に冒頭に述べた
免疫グロブリンのクラスについて触れます。
A1,A2,D,E,G(1~4),Mがあるということは
既に紹介しました。
構造を簡単に図式化しました。
igAは本当はV字型をしています。
またD,E,Gはぱっと見同じ形をしています。
続いて、クラスそれぞれの役割を簡単に紹介します。
サブクラスも大きな差はありませんので、
まとめて紹介します。
igAの役割
喉や腸の粘膜に存在。常駐して防衛しています。
そのため、特異性が高いig軍の中で、特異性が低く調整されている変わり種でもあります。
結果、反応する病原体が多く、いろんな病原体の侵入を防ぐことが出来ます。
しかしながら、だらだらしている訳ではありません。
igDの役割
最近、呼吸器系の免疫に関与していることが判明してきた抗体です。
抗体産生をするB細胞の表面にも存在します。
しかしながら、まだまだ謎が多いやつです。
初期のクリスタ枠です。
igEの役割
寄生虫や花粉等の防御に関与しています。
外界の近くに多く存在する脂肪細胞を刺激することで
異物の侵入を防いでいます。
最近、衛生環境の改善により、
寄生虫等が減ったため戦う相手が
花粉メインになってきています。
結果、花粉に過剰反応して暴走し
花粉症になるという話もあります。
igMの役割
初めて感染した病原体の場合、
最初に出てくるig軍の斥候部隊です。
血液中とリンパ液中に存在します。
だいたい感染から4~5日で登場します。
5つの抗体が結合した形をしていて、
結合部位が沢山あり、
とにかく、抗原とくっつきやすいです。
感染拡大阻止も目的としながら
情報収集を強化も目的とするため、
細菌、ウイルスを固めたり、補体活性を上げる
という機能が強化されています。
情報収集とサポートも行う抗体です。
ちなみに初期感染を示すマーカーになります。
igGの役割
ig軍の最終兵器にして最大派閥です。
血液中、リンパ液中、脳脊髄液、腹水内と
ありとあらゆる場所に存在します。
さらには胎盤を通過して赤子の免疫もカバーもしてくれます。
感染時には遅れて登場するします。
その分、しっかりとチューニングされており特異性は高いです。
病原体に結合し中和、さらには好中球やマクロファージを
召還しまくるという獅子奮迅の働きをします。
彼らが登場すれば人類の勝利は近いです。
2回目以降の感染では最初から迅速に出動します。
そのため、一度感染した病原体には再感染しにくくなります。
IgGを集めた抗体がモノクローナル抗体製剤です。
なんとか『マブ』ってやつですね!
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余談
ちなみに抗体検査ではMとGを確認します。
この組み合わせは血液中から採取できる上、
組み合わせることで感染のタイミングが判ります。
- igM陽性 igG陰性:感染初期
- igM陽性 igG陽性:感染中~後期
- igM陰性 igG陽性:過去感染していた
終わりに
いかがだったでしょうか。
抗体の役割&種類の概略を紹介しました。
抗体テクノロジーの進化は凄まじく、
その特異性を活かした
抗体薬物複合体や二重特異性抗体も登場しています。