2021年薬価改定の薬価乖離率5%に製薬業界がなぜ怒るのか

みなさんお疲れ様ですチクチクです。

今回は2021年の
薬価改定を取り上げます。

正直、製薬業界はメチャクチャ怒っているんです。
現場の人間からすると
今回の薬価改定はあり得ない…イジメに近い。

でも、薬価関連の話って小難しい言葉を使って
一般にはイマイチ伝わりにくくされています。

チクチク
正直MRでも経験年数浅いと
よく解っていない人が一定数います。
ドチク子
そんな内容を一般に理解しろ
というのも難儀よね。
チクチク
でも、わかりにくいが故に
深刻さが伝わりにくくて、
より製薬業界が
イジメのターゲットに
されている気が
するんですよね。
実際の記事を紹介します

21年度薬価改定は、乖離率5%(薬価調査結果の平均乖離率8%の0.625倍)を超える価格乖離の大きな品目を対象に実施。

今回の薬価調査での乖離率(8.0%)が同じく中間年にあたる18年度調査に比べて0.8%高かったことから、その分を新型コロナによる影響とみなし、改定後薬価の算定時に薬価の削減幅を軽減する。

引用:NEWS 乖離率5%を超える品目を対象に薬価改定を実施―21年度改定の骨子が了承

 

ドチク子
は?

チクチク
ね?意味不明でしょう?
でも大丈夫!
解き明かして行きます。

【本記事の内容】

  • 乖離率とは何かわかります。
  • 製薬業界が怒っている理由が
    わかります。
  • 製薬業界に同情してくれると
    嬉しいです。
もくじ

乖離率とは?

乖離率とは?

チクチク
まずは最初に
乖離率を確認します。
チク子
言葉の意味は重要よね

乖離率は漢字の通り乖離している割合です。
何と何の乖離かというと、
薬価と税込納入価の乖離です。

チクチク
納入価は医薬品卸から医療機関に
納入するときの価格ですね。
この辺を詳しく知りたい方は
過去記事をご参照ください!

過去記事:医薬品卸の談合問題【仕切価、納入価、リベート解説と併せて考察】

ざっくりいうと、
医療機関が何%引きで薬を仕入れているか?
という事を表します。

答えを先に言ってしまうと、
2020年の納入価の全国平均は92%程度なので、
全体の乖離率の平均は8%です。

チクチク
全体の平均なのでこの中には
20%の商品もあれば、
1%の商品も混在しています

 

ちなみに平均乖離率の
正確な計算式は以下の通りです。

{(現行薬価×販売数量)の総和-(実販売単価×販売数量)の総和}/(現行薬価×販売数量)

参考:令和元年薬価調査結果

 

8%儲けているの?

ドチク子
え?薬価から
8%も乖離している…
ってことは薬局は薬使うだけで
8%も儲けているの?

こう思った方いらっしゃいますよね?
当然の疑問です!!

まぁ儲けているといえば儲けているのですが、
調剤する際にミスしたり、デットストックになって
丸々廃棄になったりしますので
まるまる儲けているというかというと違います!

チクチク
ミスも想定すると
少しばかりの差益は欲しいのが
医療機関の本音だと思います。

今回の薬価改定の背景と製薬業界が怒っているポイント

今回の薬価改定の背景と製薬業界が怒っているポイント

冒頭でも紹介した通り今回の薬価改定は
21年度薬価改定は、
乖離率5%を超える品目を対象に
実施されています。

なんでこんな5%というバーを設けたか?
というと

 

これまで2年に1回であった薬価改定を
毎年にする!!
という国の決定に対して

薬価ダウンが経営に直結する製薬業界としては、
当然簡単に飲むわけには行かないので、
全部やらずに
大きく薬価が乖離している品目に
限ってやりましょう!
という取り決めがあったためです。

実際、2016年末に4大臣で合意された
「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」では、
「価格乖離の大きな品目」を対象とすると決定されています。

そして今回の協議でも

日本製薬団体連合会(日薬連)など、日米欧製薬3団体は11月25日、中医協薬価専門部会で意見陳述に臨み、薬価中間年改定の対象範囲について「乖離率が著しく大きい品目」に限定するよう主張した。

引用:ミクスオンライン2020/11/26

 

チクチク
こう主張しています。
乖離率が著しく大きい品目がポイントです。

そうなると
乖離率が著しく大きい品目の
判断基準はどこか?
これが今回の薬価改定の争点でした。


具体的には1倍の8%にするのか?

2倍の16%にするのか?ということが
当初から話し合われていました。

実際12月9日の中医協の議事録にも
1-2倍で話し合われていた旨が
記載されています。

ある一定範囲で薬価改定を行った場合の薬剤費の削減総額について幾つかの場合分けを行ってお示しいただくようにお願いしたわけであります。
これを受けて、今回、平均乖離率の1倍、1.2倍、1.5倍、2倍以上を対象と場合の全体の財政影響が事務局から提示されております。

引用:2020年12月9日 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会 第172回議事録

この段階ではざっくりと

製薬会社
大きく乖離という位だから
2倍(16%)が妥当だろう!!
厚労省
いやいや国民のためだから
1倍(8%)にして薬価を
大きく下げようよ!

こんな勢力に別れていました。

ちなみに

2倍の場合は1200億円

1倍の場合は3600億円

上記金額が医薬品市場から
消えると試算されていました。
医薬品市場は約10兆円産業ですから
1〜3%強の売り上げが消えるわけです。

チク子
製薬業界として絶対に
1%に抑えたいところね!
チクチク
でも結局、負けました!
交渉の場に製薬企業が議決権を持たないという
政治的な理由もありますが、
こういう時の製薬業界は本当に弱いんです。

結果乖離率1倍の8%で
ほぼほぼ決まります。
3.6%の市場が消える瞬間です。

製薬会社はいつもの様に
涙を飲んで交渉の場をさりました!!

 

 

 

 

 

…さりました。

 

 

 

 

 

 

 

…でもアレ?って思いますよね?
そうです。今回のバーは8%ではなく
それよりもさらに低い
5%に設定されています!!

 

ここからあり得ない
急展開をむかえます。

 

 

 

厚労相と財務相が折衝を行い政府主導で
勝手に5%に書き換えてしまいます。

麻生太郎財務相と加藤勝信官房長官、田村憲久厚生労働相は17日、来年度予算編成に向けた大臣折衝を行い、来年4月の薬価中間年改定について平均乖離率8%の0.625倍超(乖離率5%超)の品目を対象とすることで合意した。

全品目の69%となる1万2000品目が対象

引用:薬事日報:「乖離率5%超」対象で決着、全品目の約7割引き下げへ‐中間年改定で閣僚合意

削減額は4300億円ですので
4%強の市場が消えました!

これまで中医協にて
各組織が折衝を行い決定した
8%という値を
政府の一存でひるがえしたのです!!

当然納得できるロジックなんかありません!!
製薬業界に一方的に負担を強いる暴挙です!!

ちなみに政府介入により
旗色が怪しくなる直前の12月9日の中医協では

厚労省保険局の井内努医療課長は、今回提示した試算があくまで2019年12月に中医協でまとめた「薬価制度抜本改革についての骨子」に示された試算に準じたものであると説明。「事務局案ではない。前回の宿題返しで分析してみたということ」と述べ、厚労省として薬価制度改革案を提示していないとして、診療・支払各側の意見を集約する姿勢を強調した。

引用:中医協 21年度薬価改定 平均乖離率1倍超で新薬21%、後発品67%が該当 支払側「歪な改定」と牽制

このように
厚生省はあくまで意見集約に徹していた
にもかかわらず
14日には1倍を下回る方向に転換しています。

ワクチン作れ!!とか日本の柱になれ!!
とか色々要求してくるくせに
支える気は全くない政府です。

乖離率が著しく大きい品目という
製薬会社の希望は簡単に無視され

さらに
ここぞとばかりに
市場を削ってきたのです!
そりゃあ製薬業界怒りますよね?

 

ドチク子
「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」で決めた「価格乖離の大きな品目」はどこにいったのよ!!

 

チクチク
ちなみに過去30年間、
製薬業界は辛酸を
舐め続けています…

 

ドチク子
辛酸なめ子ォ!!!

 

今回の決定で特に許せないのは、
個人的には田村憲久厚生労働相ですね!!

財布役の財務省が薬価削減に走るのは当然なので、
財務大臣にとやかくは言いません…

が!!医療業界のボスたる
厚生労働相は違います!!

ボスが業界を守れず易々と暴挙を受け入れたことに
怒りを隠せません。
この一件だけで私は田村憲久氏を政治家として
今後推すことはありませんし、

業界内に同じ思いの人は
多いのではないでしょうか?

 

ドチク子
最低限、業界を守るスタンスは示せよ…
チクチク
余談ですが、
この次の改定である22年度改定の際に診療報酬が削られそうになると、田村氏含む3人の元大臣で財務省に押し掛け交渉を行っています!扱いの差が酷すぎ
2022年度の診療報酬改定の調整が
大詰めを迎えた17日夜、歴代の厚生労働相である
尾辻秀久、加藤勝信、田村憲久の3氏が
財務省に茶谷栄治主計局長を訪ねた。

長引く新型コロナウイルス禍で
医療機関の経営が厳しいことを
重ねて訴えるためだった。

最後に(私見)

最後に(私見)

最後に今後、製薬会社は
どのような対応をとっていくのか
簡単に考えて筆をおきます。

毎年改定が行われる以上、
薬価ダウンはこれまで以上に加速していきます。
今回は乖離率5%以下の品目は薬価改定を受けませんが、

今後は

全品目毎年改定
または今回同様
乖離率5%以上を毎年改定

こんな環境になるのではないでしょうか?

そうすると製薬企業は自社品の薬価を守るために、
乖離率を抑える活動が活発化すると私は考えます。

乖離率を低く抑えることができれば、
薬価改定のターゲットになりませんし、
なっても乖離率が小さければ
影響は最小限ですみます。

実際、特約卸を絞り込むことで競争をなくし
薬価維持を狙う活動は
外資系のGSKやノボにて既に起こっています。

今後は納入価&乖離率を抑えるために
仕切価をこれまで以上に高くする企業も
出てくるかもしれません。

過激なことをいうと製薬会社から
特約店卸へ販売する価格である
仕切価が95%以上ならば、


特約店が乖離率5%以上で
売ることが難しくなります
(赤字になってしまうため)

こうなると院内処方の病院では
高くなりがちな新薬が採用されなくなるでしょう。

後発品の中には引き続き
安く売る会社もあるでしょうが、
そういった会社は薬価が下がり続け
品質が悪くなる可能性もあります。

結果的に
新しい効果的な薬が使われにくく、
品質の悪い薬が
蔓延する可能性があります。

その被害を受けるのは
他でもない患者さんたちです。

チクチク
こうならないことを
願っています

【本記事の内容】

  • 乖離率とは何かわかります。
  • 製薬業界が怒っている
    理由がわかります。
  • 製薬業界に
    同情してくれると嬉しいです。

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