アメリカで薬価の高さが問題視されている中、2022年にバイデン大統領が署名したインフレ抑制法(IRA)は、医薬品の価格を大幅に引き下げるための新しい仕組みを導入しました。本記事では、その詳細と影響を解説します。
「インフレ抑制法(IRA)」
って聞いたことありますよね?
アメリカでは、薬が高いってのは
社会問題化してきてまして
薬が高くて使えないって人が
それなりの人数いるわけです。
そんな中、2022年にバイデン大統領が
「インフレ抑制法(IRA)」
という新しい法律にサインしました。
Inflation Reduction Actの頭文字でIRAです。
この法律は、薬の値段を
強制的に下げるための新しい仕組みです。
薬価さげの波が日本だけではなく
アメリカにもやってきたのです。
日本の薬価下げは
エグいからね!
このIRA
2024年8月にはついに
最初の価格妥結がなされまして
26年1月から最大79%削減されます…
こちらが最初に薬価が下がる10品目です。
薬品名 | 交渉薬価 (30日分) | 2023年定価 (30日分) | 割引率 | 差額 |
---|---|---|---|---|
ジャヌビア | $113 | $527 | 79% | $414 |
フィアスプ | $119 | $495 | 76% | $376 |
フォシーガ | $178.5 | $556 | 68% | $377.5 |
エンブレル | $2,355 | $7,395 | 67% | $5,040 |
ジャディアンス | $197 | $580 | 66% | $383 |
ステラーラ | $5,497 | $15,697 | 65% | $10,200 |
イグザレルト | $197 | $517 | 62% | $320 |
エリキュース | $219 | $561 | 61% | $342 |
エンレスト | $209.5 | $628 | 53% | $418.5 |
イムブルビカ | $9,225 | $14,984 | 38% | $5,759 |
ドルだと分かりにくいので
1ドル145円で計算すると…
薬品名 | 交渉薬価 (30日分) | 旧薬価 (30日分) | 割引率 | 差額 |
---|---|---|---|---|
ジャヌビア | ¥16,385 | ¥76,415 | 79% | ¥60,030 |
フィアスプ | ¥17,255 | ¥71,775 | 76% | ¥54,520 |
フォシーガ | ¥25,882 | ¥80,620 | 68% | ¥54,738 |
エンブレル | ¥341,475 | ¥1,072,275 | 67% | ¥730,800 |
ジャディアンス | ¥28,565 | ¥84,100 | 66% | ¥55,535 |
ステラーラ | ¥797,065 | ¥2,276,065 | 65% | ¥1,479,000 |
イグザレルト | ¥28,565 | ¥74,965 | 62% | ¥46,400 |
エリキュース | ¥31,755 | ¥81,345 | 61% | ¥49,590 |
エンレスト | ¥30,377 | ¥91,060 | 53% | ¥60,683 |
イムブルビカ | ¥1,338,625 | ¥2,172,680 | 38% | ¥834,055 |
100万円単位で減っている…
いやーとんでもない金額ですよね。
正直、製薬メーカーへの
ダメージは計り知れません…
メーカー勤務者が
概要を知らないのはまずいので
ポイントをまとめました
- 薬価交渉の新しい仕組み
- インフレリベートの導入
- メディケアパートDの再設計
この3点を確認していきます
薬価交渉の新しい仕組み
これまで、アメリカのメディケアは、
薬の値段について製薬会社と
交渉することができませんでした。
つまり、製薬会社が設定した価格を
そのまま支払うしかなかったわけです。
言い値で買ってました!
日本から見ると羨ましすぎます!
でも今回、IRAが導入されたことで、
このルールが大きく変わりました。
この法律により、2026年からメディケアは
特定の高額薬の価格交渉を
メーカーとできるようになりました。
後述しますがメディケアは
米国の公的保険です。
つまり実質的には国がメーカーと
薬価交渉ができるように変わりました!
最初に交渉される薬は、
メディケアパートDでカバーされている
高額な10種類の薬(冒頭の表参照)で、
その後、交渉の対象が徐々に増えていく予定です。
(年間最大20品目らしいですガクブル)
価格交渉ですので
メーカーとのバチバチ交渉です。
相当難航したのでしょう…
23年に開始された交渉が
妥結し決定したのが今月ですので
ざっくり1年はかかっているわけです。
もめてそうですねぇ
※追記:業界誌によると
かなり強制的な価格交渉だった模様…
最低でも1000億は
売れていそうな薬ばかりなので
1900%となると
1.9兆円以上のペナルティ税...
こんなの交渉じゃなくて
強制じゃない…
のむしかないよね…
ところで
メディケアパートD
ってなに?
いきなり出てきた単語ですので
簡単に解説します。
メディケアは1965年に創設された
米国の公的な医療保険制度です。
基本的に高齢者や障害者を対象にしています。
色々なプログラムがありますが、
メインはA -Dの4階層です。
プログラムを
ざっくりまとめました
パート / プログラム名 | 概要 | カバー範囲 | 対象者・条件 |
---|---|---|---|
メディケアパートA(病院保険) | 入院、スキルド・ナーシング施設、ホスピスケア、一部の在宅医療をカバー | 病院での入院、スキルド・ナーシング施設、ホスピスケア、一部の在宅医療 | 65歳以上、特定の障害者 |
メディケアパートB(医療保険) | 外来診療、予防医療、耐久医療機器などをカバー | 医師の診察、外来治療、予防サービス、耐久医療機器(DME) | 65歳以上、特定の障害者 |
メディケアパートC(メディケアアドバンテージ) | パートA、Bを統合し、追加のサービスも含む総合的な保険プラン | パートA、B、パートD(オプション)、追加のサービス(視覚、歯科など) | パートA、Bの受給資格がある者 |
メディケアパートD(処方薬カバー) | 外来処方薬の費用をカバー | 外来処方薬 | パートA、Bの受給資格がある者 |
メディギャップ(Medigap) | メディケアでカバーされない医療費を補う補足保険 | コインシュアランス、免責額、追加サービス(例:海外旅行保険など) | パートA、Bの受給資格がある者 |
メディケア・セービング・プログラム | 低所得者向けにパートA、Bの費用を助成するプログラム | パートA、Bの保険料、コペイメント、コインシュアランス、免責額など | 低所得のメディケア受給者 |
PACE(高齢者向け包括的ケアプログラム) | 高齢者向けの包括的ケアプログラム | 医療、リハビリ、長期ケア、社会的支援 | 55歳以上、介護施設が必要な状態の者 |
SNF(Skilled Nursing Facility) ケア | リハビリや高度な看護ケアを提供する施設 | スキルド・ナーシング施設での短期間のケア | 医師の指示があり、病院治療後の回復期にある者 |
在宅医療(Home Health Care) | 自宅で医療サービスを提供 | 訪問看護、理学療法、言語療法など | 移動が困難で医師の指示がある者 |
パートDは
外来処方薬の保険です
インフレリベートの導入
もう一つの大きな変更点は、
インフレリベート制度の導入です。
これまで、製薬会社は毎年薬の値段を
好きなように上げられました。
しかしIRAによって
制限がかかるようになってしまいました。
2023年からは、
製薬会社が薬の値段を
インフレ率以上に引き上げた場合、
その超過分を政府に返還することが
義務付けられました。
この仕組みによって、
薬価の急激な上昇は抑えられます。
メディケアパートDの再設計
IRAはメディケアパートDの
保険制度自体にも大きな変更を加えました。
例えば、2025年からは
患者の年間自己負担額が
2,000ドルに上限設定されます。
(従来は3,500ドル)
これまで、自己負担が
どんどん増えてしまうことが
問題になっていましたので、
これは患者にとって大きなメリットです。
他にも保険の仕組みが見直されて、
製薬会社が薬に対して提供する
割引の金額やタイミングが変わる予定です。
結果、特に高価薬を使っている
患者の支払い金が
減ることが期待されています。
メーカーとしては
患者負担が上限で
処方が増えればいいけど…
そんなに甘くないよね
おそらくですが
IRA導入発表時に利益が削られることで
製薬会社から患者への割引額が減ることで
患者負担が減ると言う
批判を受けての対策かと思います。
米国では処方薬でも
メーカーから患者への
割引プログラムがあるんです
まとめ&国内企業への影響は?
インフレ抑制法(IRA)は、
アメリカにおける医薬品価格の設定に
革命的な変化をもたらす法律です。
患者にとっては薬価の
負担軽減が期待される一方で、
製薬企業は
新たな戦略的対応を
迫られることになります。
この法律が今後アメリカの医療システムに
どのような影響を与えるのか、
そして製薬業界がどのように対応していくのか、
これからも注目していく必要がありますね。
最後に冒頭で紹介したミクスオンラインさんの
記事に以下文章を引用いたします。
薬価交渉の対象薬は今後も毎年追加される。来年は2027年に適用するPart Dの処方薬を最大15品目発表し、2026年はPart B(院内処方薬)とPart Dの医薬品最大15品目を追加、その後は毎年最大20品目ずつ追加していく予定。
引用:米・バイデン政権 処方薬10品目の薬価引下げで合意 ジャヌビア79%削減 26年1月適用 60億ドル削減へ 引用日:2024年8月21日
今後、毎年20品目近く、
大幅な薬価ダウンが
アメリカでは行われることが確定しています。
いやーアメリカも
地獄ですね!
薬で儲けるな!っていう
世界の声が聞こえるぜ…
本当にやるせない…
今回は日本の製薬会社の薬は
含まれていませんが
今後、含まれた場合
米国依存度の高い企業は
ダメージあるかも…
海外売り上げ比率が高い
アステラス製薬は
かなり早い段階で
声明しているよね
野村ではアステラス製薬のXtandi が26年に、次に同社のMyrbetriqが27年に、小野薬品工業のOpdivoが28年に薬価交渉対象になると考える。Xtandiは26年1月に前年比35%の薬価引下げ、Myrbetriqは27年1月に同35%の薬価引下げを想定した。Opdivo は28年1月に同35%薬価引下げを想定した。Xtandiは27年8月、Myrbetriq は28年4月、Opdivoは28年12月にそれぞれ米国特許満了を迎えるため、実質的にはジェネリック発売の1年前の薬価引下げとなり、企業価値への影響はそれほど大きくはない。
これ読むと
たくさん売れた場合
特許前に大幅に薬価下げるよ!
と言う特例拡大再算定と
似たようなコンセプト感じますね
ほんと嫌になりますわw